「万物は水から出来ている」
この謎の言葉を残したタレスは、最も古い哲学者とされ、とても評価されています。
あのソクラテスより古い時代の人で、教科書にも必ず出てくるビッグネーム。
なにやらすごそうですが、どこが一体優れているのか、いまいちピンと来ない。
だって「全てのモノは水からできている」なんてトンデモな説を唱えたこの人、現代の私たちから見たら、ちょっと頭のオカシイ人…と言われても仕方ないですよね。
今回はこのちょっとオカシイ…もとい、謎の大人物タレスについて、紹介と解説をします!
参考 初級者のためのギリシャ哲学の読み方・考え方 (だいわ文庫)
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今回の内容はコチラ(目次です)
タレスってどんな人?
まずはタレスがどんな人か、なんとなく名前だけ聞いたことがあるという人も多いでしょう。
「え?全然聞いたことないよ♪」という人もいるかも知れませんね。
ウィキペディアにもきちんと説明がありますが、これもなかなか長くてムズカシイ…
ということで、フクロウの独断と偏見に基づき、タレスという人物について重要なポイントを簡単に紹介します。
タレスは古代ギリシャのソクラテスよりも古い人
タレスは紀元前625年に古代ギリシャに生まれました。古代ギリシャと言えば「哲学の父」と言われるソクラテスが有名です。そのソクラテスよりもさらに約150年ほど前に生まれました。
エジプトのファラオで有名なラムセス2世や、中国の釣り好きの軍師太公望(たいこうぼう)などは紀元前1000年よりまだ昔じゃ。
日本でいうと、初代である神武天皇の方がタレスより少し先輩じゃな
タレスは名門出身でなかなかの知識人
タレスは生涯で一冊も著作を残していません。ですので、彼の人物については、他の人の書いた本や歴史書などから推測するしかないようです。
それらによると、タレスはもともと名門の出身で、若いころは政治家として活躍したそう。後に自然に興味を持ち、特に天文学や数学に詳しかったようです。
そんなタレスには面白いエピソードもあります。
あるとき、ピラミッドの高さを図ろうと思い、ピラミッドの影の長さと自分の身長を比較して計算し、答えをだしたとか。他にも天文学の知識を活かし日食を予知したという話もあります。
なかなか、マルチな才能を持つ人ですね。
タレスはどうして偉いのか?
なるほどタレスはなかなかの知恵者だったようですね。なのにそんな彼がどうして「万物は水である」なんてトンデモな説を考えるに至ったのか。それに、そのことで、有名になったかもフシギです。
このことは、当時の時代状況が大いに関係しています。
古代ギリシャは神話の時代
ところで、質問です。
カミナリはなぜ発生するのでしょうか?
実は、私も正確なところは良くわかっていませんが、おそらく空気中の電気がどーにかこーにかなることよって発生するものだと思います。
現代に生きる私たちは、ほとんどの人がそう思っているでしょう。
ですが、これが明らかになったのは科学が発展した最近の話。古代では圧倒的に多くの人が「神様がお怒りじゃ!」と考えたことでしょう。
科学的な答えが全くなかった時代、人々は物事のすべてを神の仕業と考え、敬い、そして恐れました。
タレスが生きていた時代は、まさにこのような神話が支配していた時代なのです。
万物は水から出来ている! のかなぁ?
神話が力を持っていた時代に、様々な知識を持ちマルチな活躍をしていたタレス。しかし、そんな程度では世界史に残ることができるでしょうか。
何よりタレスを有名にしたのは「万物の根源はは水である」という言葉。これにより、タレスは「最古の哲学者」というかなりレアな評価を得ました。そして、現在まで名を残し、多くの受験生を悩ませているわけです。
「万物は水」…つまり、全てのモノは水から出来ている…
野菜や果物、動物や人間、挙句の果てには石や土も、炎までもが水からできている?
タレスはこのように主張するのです。
現代から見ればあまりにバカバカしく見えますよね。もし、小学生の子どもが学校から帰ってきて、
「お母さーん、ただいま!全てのモノは水から出来ているんだよ!」
なんて言ったものなら、お母さんは
「え?理科の授業があったの?もしかして、授業中ずっと寝てたのかしら?」
と心配してしまうでしょう。あるいは、1か月間机の引き出しに放置し、カビが生えて緑になった給食パンを息子が持って帰ったのを見た私の母親のように、卒倒してしまうかも知れません。
こんなトンデモナイ説を、いくら科学の未発達な古代ギリシャとは言え、信じる人はいなかったでしょう。
タレスは世界で初めて物事の根源を考えた
トンデモ説を唱えたタレス。一方で、世界最古の哲学者とも賞賛されているタレス。
「一体何が本当なのか?」
タレスは習慣や伝統にとらわれず、合理的に物事を考える人だったと言われます。
「この世界は誰が作ったの?」「それは神様だよ」
「どうして、人は死ぬの?」「それは神様が決めているんだよ」
色々な疑問に対して、とりあえず「神」と答える。そして、深く考えもせず「神」と言われた時点で、なんとなく納得する。そんな当時の風潮に、タレスは我慢ならなかったことでしょう。
「神様が作った?神様が決めた?そんなワケない!神様なんて見たことない。何か他の原因があるはずだ!」
タレスは、人々が深く考えようともせず、「神様」という答えに納得している世の中で、ただ一人逆らって、「神様ではない、万物の根源について」問い続けました。
重要なのはまさにココ。
タレスは考えて考えて、考え抜いた末に、「…うぅ、分からない…み、水っ!」と砂漠をさまよう旅人のようにつぶやいたのでしょう。
やっとたどり着いた「万物は水から出来ている」という答え。これは現代から見れば明らかに誤った、トンデモな珍説です。
こんな答えは、重要でもなんでもありません。大事なのは答えではない。
むしろ、誰もが信じているぬるま湯のようないい加減な考えに逆らって、「初めて問うた」ということこそ、タレスが「最古の哲学者」と呼ばれるゆえんだと言えるのです。
学者の中には「問いが立てば、問題の半分以上は解決したも同じ」という者もおるしの
「問いが大事」というのはビジネスでも同じですね。
「売り上げを上げるにはどうするか?」と問うより、「お客様のリピート率を20%アップさせるにはどうするか?」と問う方が効果があったりするんだって
タレスがどのような思考を経て、あるいは、どのくらいの確信をもって「万物は水から出来ている」と言ったのかはわかりません。きっと、この答えには彼自身、決して満足してはいなかったでしょう。
ただ、初めて問いを発し、考え続けたという自分の姿勢については、誇りに思っていたことでしょう。
まさに西洋の哲学は、この時から始まったと言えるのです。さらには、ソクラテスやプラトン、アリストテレスといったビッグネームにつながっていくんですね。すごいぞ、タレス!
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参考 初級者のためのギリシャ哲学の読み方・考え方 (だいわ文庫)
最古の哲学者タレス 珍エピソード
初めて「万物の根源は何か」と問うことで、西洋哲学を創始したとされるタレス。
すごい人物ですが、有名人にはもれなく珍エピソードがつきものです。教科書にはのっていない、人間タレスのお間抜けな一面もありますよ。
タレス、穴に落ちて笑われる
天文学に通じているタレス。ある夜、天体を観測しようとし、召使の女性を連れて出かけました。学問のことになると周りが見えなくなるこの男、夢中になって星を見ているうちに、ぽっかり空いた大穴に落っこちてしまいました。
そんなタレスに召使の女性は、
「先生は、星については詳しくても、足元のことは全然ご存じないんですねw」とガツン。
普段の振る舞いが、相当わずらわしかったのかも知れませんね。
天気予報で大儲け?
「哲学なんて役に立つのかい?」と常々バカにされていたタレス。
天候にも詳しかった彼は、ある時、「来年はオリーブが豊作になるぞ」と予測し、オリーブ油を搾るための機械を買い占めてしまいました。
翌年になると、結果は予想通りの大豊作。
大儲けしたタレスはバカにしていた人たちを見返して、皮肉交じりに、
「ま、ボクが本気になればいくらでも稼げるんだがね」
と一言。
こんな風だから、穴に落ちて笑われちゃうわけです。
本の紹介
今回はギリシャ哲学に関する本を2冊と、今回のテーマに関連した「問う」を活かすビジネス本1冊を紹介します。
「初級者のためのギリシャ哲学の読み方・考え方」
こちらは古代ギリシャ哲学を初めて学ぶ用の、ホントっに分かりやすい「最初の1冊」を紹介します。
ギリシャ哲学について、どんな特徴があるのか、どういう点で重要なのかなど、全体像をつかむことができる本です。
重要なところは太字であったり、たくさんのイラストがあったりして、とても読みやすく、面白くて、間違いなく分かりやすいです。文句なしにおススメの一冊で、ギリシャ哲学についてまだ読んでないと言う人は、全員買っても良いと思います(笑)
ただ、デメリットとしては、今回の記事で紹介した「タレス」についてはあまり触れられていません。ソクラテス、プラトン、アリストテレスなど、ギリシャ哲学の王道についての解説がメインです。
「ギリシャ哲学者列伝(上)」
こちらは、中級者以上向けです。古代ギリシャの哲学者について、網羅的に書かれています。人物図鑑と言った感じです。著者は3世紀のギリシャ哲学者ディオゲネス・ラエルティオス。著者自身が古代ギリシャの人物です。
初学者でも読めないことはないのですが、難しいというより、淡々と哲学者の紹介をしているため、「退屈」で「面白くない」面はあります。
それもそのはず、岩波文庫からの本で研究者や大学院生、などが論文やレポートを書く際に、参考文献としてバシバシ利用されるタイプの本です。
上・中・下の3巻からなっていますが、一応上巻についてリンクしておきます。
「イシューからはじめよ」
イシューとは「問題意識」のことです。
私たちは、問題に直面した時、いかに良い「答え」を出そうかと考えがちですが、この本では「問題」の設定こそ大事と主張します。
タレスに似ていますね。答えより問いが大事。このことをビジネスに応用するためのノウハウが詰まった本です。
ちなみに著者の方は、ヤフーでCSOを務め、東京大学大学院で生物化学を専攻し、マッキンゼーに入社し、イェール大学で脳神経科学を学んだ後、現在は慶應義塾大学の教授をされているという、鬼経歴の人です。理論も実践もハンパない感じです。
まとめ
「万物の根源は水である」という言葉を残したタレス。彼の業績の偉大さは、「水である」という答えではなく、「万物の根源とは何か?」を初めて問い、考え続けたことでした。
何事も、初めてというのは大変なこと。それも、多くの人が信じていることを拒絶し、自分を信じる道を行くというのは、並大抵のことでなないでしょう。
そして、彼がいなければ哲学の歴史も、そして現在の地球の様子もきっと変わっていたと思います。
それを思えば「最古の哲学者」という彼の評価にも納得できそうです。
2、電気が関係している自然現象でしょ?