車を運転していると、突然パトカーに呼び止められて、「ハーイ、ちょっとスピード出ちゃってましたね♪」と違反切符を切られてしまうこと、結構あるあるだと思います。
ところで、この交通ルール。納得のいくものもあれば、「ん?」と首をひねりたくなるものもあるのではないでしょうか?
例えば「シートベルトの着用義務」
これって、よくよく考えると少し不思議な気がしませんか?
確かにシートベルトを着用する意味は分かるけど、しないからって誰かに迷惑をかけるわけでもないし…
実はこのルールの裏には、ちょっと難しい哲学的な思想があるのです。
今回はこの思想「パターナリズム」と「リバタリアニズム」について解説します!
今回の内容はコチラ(目次です)
交通ルールは守るべし! そんな当たり前を少し深掘りしてみた
「車は凶器」と言う言葉もあるように、自動車の運転は一歩間違えば重大な事故につながり、他人にも大きな被害をもたらしてしまうこともあります。
なので、むちゃな運転を許さないために法律で規制することは誰もが納得いくと思います。
ルールは必要じゃが、あまり出しゃばるべきではない。
これを法の謙抑性(けんよくせい)と言うんじゃ
適切な交通ルールを皆が守ることで、交通安全が保たれると言えます。
交通ルールも違うタイプのものがある?
今、日本には様々な交通ルールがあります。免許を持ってない方や若い学生さんでも、「制限速度」や「駐車禁止」「シートベルト着用」などは聞いたことがあるでしょう。信号に従う、なんていうのは自動車はもちろん歩行者も守るべきルールですね。
ところで、この交通ルールですが、これは必要あるのかな? というものはないでしょうか?
- スピード出しすぎは事故の元
- 駐車禁止を破ると迷惑をかけてしまう
- 信号無視はもってのほか
では、シートベルト着用は? アレ?
多くの交通ルールはそれを守らないと、危険であったり、他人に迷惑をかけてしまうものばかりです。
ところが、シートベルトはどうでしょうか。
もし、着用しないとしても他人には迷惑をかけませんよね。
もちろん、万一の事故のことを考えると着用する方が良いことは確かでしょう。
ですが、それを規則として定めるほどのことでしょうか?
法律の考え方1 パターナリズムとは厳しいお父さん!?
実はこの「シートベルト着用義務」という規則の背後にはパターナリズムという法の考え方があります。
えっ? なんかややこしそう・・・と思われた方!
大丈夫です!
今回はこの「パターナリズム」を解説するための記事でもあるのですから!
思いっきり分かりやすく解説してみます!
と、言っても実際それほど難しく考えなくてもOKです。
パターナリズムとは日本語では父権主義(ふけんしゅぎ)と訳されています。
「お父さんがわが子を厳しくそして温かく指導するように、国家も国民を保護しよう!」 という考え方のことです。
子どもが危ないことをしていたら、父親は叱りますよね。
国家もそれと同様に、国民が安全に暮らせるよう、法律で規制しようという発想なのです。
【参考】 ナッジ!?: 自由でおせっかいなリバタリアン・パターナリズム(勁草書房)
パターナリズムは余計なお世話!?
なるほど、確かに国が国民の安全を守るために法律で規制するという考え方は一理あると思います。
ちなみにシートベルト着用を義務としている国は、ある調べによればすべての国ではありません。
【参考】JAFサイト 海外のシートベルト着用・チャイルドシート使用義務
「シートベルト? そんなのかったるいね! オイラが事故にあうわけないジャン♪」
なんてうそぶいてても、事故にあったら泣くに泣けません。
法律で規制することで、このようなことが少しでも減ればそれは良いことでしょう。
ただ、「正しいことは、全部法律を作って守らせればいいじゃん!」という発想はどうでしょうか?
これが行き過ぎれば、
- 「国民は1日30分運動をしなければならない!」
- 「煙草を吸ったものは罰金を科す!」
- 「フクロウのブログが更新されたら必ず見ること!(涙)」
3つ目はともかく、こんな法律ができたとしたら、
「余計なお世話だ!」って思いますよね!
お父さんと同じで、やたら口うるさくするとありがた迷惑となってしまいます。
何事もほどほどが良いと思います!
法律の考え方2 リバタリアニズムはとにかく自由に
上で紹介した「パターナリズム=父権主義」と真っ向から対立しそうな考え方があります。
その名も「リバタリアニズム」
日本語では自由至上主義などと訳されています。
ただの自由主義とされるリベラリズムとよりも「至上」とついている分、さらに強烈に自由万歳!という雰囲気が伝わってきますね。
自由! とてもいい響きですね。それも自由至上主義!
なんかとても楽しそうです♪
ですが、当然自由が行き過ぎると危険なことも起きてしまいます。
「制限速度なし!自由に走ってよし!」
なんてことになれば、走り屋のみなさんはうれしいかもしれませんが、
私なんかは怖くて外に出られなくなってしまいます。
結局は行き過ぎた自由も困ったことになってしまうわけで、やはりほどほどがいいのかも知れませんね。
ナッジ理論で全て解決!?
ここまでは交通ルールというものを材料にして、「パターナリズム」と「リバタリアニズム」という2つの法律的な考え方について紹介してきました。
パターナリズムというのは怖いお父さんが子どもを守るために口やかましく言って聞かせるイメージ。
そして、リバタリアニズムは、「もう、とにかく自由万歳!」と言った感じです。
どちらの考え方も、良いところもあり、「ちょっと…」というところもあるようです。
「なんだよ、もっと1つでビシっとキマる理論はないのかよ!」
とお思いの方…
実はあるんです! この次にはこの1つでビシっとキマる理論=「ナッジ理論」を紹介しましょう!
ノーベル賞を受賞したナッジ理論
さあ、いよいよナッジ理論を紹介しましょう。
この理論はアメリカの行動経済学者リチャード・セイラーという人の提唱した理論で、なんと、2017年のノーベル経済学賞を受賞するきっかけになった理論でもあるのです!
ちなみにナッジとは英語の「nudge」で意味は「ひじでチョコンとつつく」ということ。
授業中居眠りしている同級生を「おいおい、先生コッチ見てるぞ」とチョコンとひじでつつくようなイメージです。
さて、この「ひじでつつく」という理論。一体どういう考え方なのでしょうか?
ナッジ理論は人間の心の仕組みをうまく突いている
私たちは規則は必要で守るべきだ、と基本的には考えていると思います。
ですが、パターナリズムのように強制されると何かイヤだと感じるし、リバタリアニズムのように完全に自由に任せられると、安全が保たれなくなることはこれまで述べてきました。
では、必要な規則を強制されることなく「自分から守りたくなる仕組み」があればどうでしょうか。
なんだかうまくいくような気がしませんか!?
これがナッジ理論の基本的な考え方です。
「たばこは害があるのでやめた方が良い」という例でみてみると、リバタリアン的発想では、「吸いたい人は自由にどうぞ」となり、パターナリズム的発想だと「たばこは害があるから禁止だ!」となってしまいます。
これについてナッジ理論は「たばこを吸うのは害があるので、みんなが自発的にやめたくなるようにしよう」と考えます。 実際には、タバコ税を上げる、禁煙外来を保険適用する、などの政策が考えられるでしょう。
このあたりの話はとても深く、そして面白いので、また記事を改めて解説してみたいと思います!
実はこのナッジ理論はリバタリアン・パターナリズムとも呼ばれています。
まさにリバタリアンとパターナリズムの良いとこどりのような理論ですね。
【参考】 ナッジ!?: 自由でおせっかいなリバタリアン・パターナリズム(勁草書房)
ナッジでシートベルトもしめたくなる!
では、このナッジ理論を交通ルールに応用するとどうなるでしょうか。
例えばある自動車会社はこのようなことを考えました。
子どもたちが自分から楽しくルールを守るなんて、うまく考えましたね!
このように、イヤイヤ従っていたルールが、ちょっとしたアイデアや工夫で、みなが進んで守るようになるなんて…魔法みたいですが、これも現実なのです!
まとめ
今回は、なぜ交通ルールを守らなけらばならないのか、という疑問から出発し、リバタリアニズムとパターナリズム、そしてナッジ理論の3つについてそのエッセンスを紹介しました。
○○イズム、△△理論というとどうしても難しく感じてしまいます。
もちろん哲学的に難しい議論もあるので、きちんと考えようとすればかなり大変なのは確かです。
また、常識的なものの見方にこだわると、大事なものを見逃してしまうこともあります。
【参考記事】 当たり前を疑え!? その常識を哲学すると・・・
ですが、哲学も実は日常生活と密接に結びついているので、こういう理論をさわりだけでも知っていると、身の回りのことがより深く理解できることも多いのです。
シートベルトを締めることで、モニターのスイッチがONになり、好きなプログラムをみることができます。
この車に乗った子どもたちは、親から言われるまでもなく、喜んでシートベルトを締めるようになるようです